尊厳死宣言とは?公正証書で残す意味と手続きを司法書士が解説
「もし自分が意識を失ったとき、延命治療はしてほしくない」——そう思ったことはありますか。
終活のご相談でお越しになる方から、こんなお話をよく聞きます。「家族には話したことがあるんですが、『縁起でもない』って言われてしまって…」と。気持ちはよくわかります。大切な人だからこそ、なかなか踏み込めないテーマですよね。
でも、だからこそ文書に残しておくことに意味があります。今回ご紹介する尊厳死宣言(尊厳死宣言公正証書)は、自分の医療への意思をあらかじめ形にしておくための手段です。「遺言書と何が違うの?」「本当に効力があるの?」という疑問もよくいただきますので、ひとつひとつ一緒に見ていきましょう。
そもそも尊厳死宣言とは何か
尊厳死宣言とは、将来、回復の見込みのない終末期状態になったときに、延命治療を望まないことをあらかじめ意思表示しておく文書のことです。
「リビング・ウィル(Living Will)」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。欧米では早くから普及していた考え方で、日本でも終活への関心が高まるなかで、少しずつ知られるようになってきました。
具体的には、こんな内容を盛り込みます。
- 回復の見込みがない場合に延命治療(人工呼吸器・胃ろう・心肺蘇生術など)を望まないこと
- 痛みや苦しみを和らげる緩和ケアは受けたいこと
- この意思表示が、自分の自由な意思によるものであること
「自分の最期を、自分で選ぶ」という考え方が根っこにあります。押しつけがましくなく、でも確かな意思として残しておくための文書です。
遺言書とはどう違うのか
終活の場面では遺言書がよく知られていますが、尊厳死宣言はまったく別のものです。この違い、意外と混同されている方が多いので、少し丁寧にお伝えしますね。
遺言書は、亡くなった後の財産の分け方や、後見人の指定などを定める文書です。効力が生まれるのは「亡くなった後」です。
一方、尊厳死宣言は、生きている間——意識はなくても心臓はまだ動いている、いわゆる終末期の状態——のための文書です。「死ぬ直前の医療のあり方」について、元気なうちに自分で決めておくもの、ということになります。
終活の全体像でいうと、遺言書は「財産と死後の意思」を担い、尊厳死宣言は「医療・介護の場面の意思」を担う、と考えるとわかりやすいかもしれません。任意後見や死後事務委任契約とあわせて準備される方も増えています。
なぜ公正証書で作るのか
尊厳死宣言は、自筆の手紙でも作ることができます。ただ、正直にお伝えすると、手書きのメモだけでは、実際の医療現場でなかなか動いてもらいにくいのが現実です。
医師の立場からすると、「これは本当に本人が書いたものか」「作成したときに判断能力はあったのか」「後から書き直されていないか」といったことを確認しなければなりません。手書きの文書では、その確認が難しいのです。
公正証書で作ると、こうした点がきちんと担保されます。
- 公証人(法律の専門家)が直接、本人確認と意思確認を行う
- 作成した日時が明確に記録される
- 原本が公証役場に保管されるため、後から書き換えられる心配がない
病院に提出したとき、医師や看護師が「これは正式に作られた文書だ」と判断しやすくなる。それが公正証書の大きな意味です。
法的な効力については、正直にお伝えします
ここは、少し慎重にお話ししなければなりません。
現在の日本には、尊厳死(延命治療の中止)を明確に認める法律はまだありません。医師が患者の意思に従って延命治療を中止することがどこまで認められるかについては、医療界・法曹界でも議論が続いているのが実情です。
ただ、厚生労働省のガイドライン(「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」)では、本人の意思を尊重することが基本とされています。公正証書によって作成された尊厳死宣言は、その意思を示す有力な資料になります。
「これさえあれば完璧」とは言い切れませんが、「何も残さないよりずっと意味がある」というのは確かです。担当の医師や病院と事前に話し合っておくことも、あわせて大切にしてください。
任意後見と組み合わせると、より安心です
尊厳死宣言をご相談いただく方の多くが、任意後見契約もあわせて検討されています。
任意後見は、将来、認知症などで判断能力が低下したときに備えて、財産管理や身のまわりのことを任せる人(任意後見受任者)をあらかじめ決めておく制度です。
尊厳死宣言が「延命治療を断る意思」を示すものだとすれば、任意後見人はその意思を医療現場に届ける役割を担うことができます。二つをセットで準備しておくと、自分の意思がより確実に実現しやすくなります。
さらに、公正証書遺言書および死後事務委任契約(亡くなった後の葬儀・各種手続きを依頼する契約)も加えると、「終末期から亡くなった後まで」をひと通りカバーできます。ご相談の際には、全体のバランスを見ながら一緒に考えていきましょう。
手続きの流れと費用の目安
実際にどう進めるのか、流れをご紹介します。
① まず、気持ちと希望を整理する
どんな延命治療を望まないか、どんなケアを受けたいか。ここが一番大切なステップです。「何を盛り込めばいいかわからない」という方も多いので、ご相談の場でご一緒に考えることもできます。
② 文案を作成する
希望をもとに文案を作ります。行政書士などの専門家に依頼することで、漏れなく・医療現場で伝わる内容に整えることができます。
③ 公証役場に申込み・内容を確認する
最寄りの公証役場に連絡して日程を調整します。本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカードなど)と印鑑が必要です。
④ 署名・押印して完成
公証役場で本人が署名・押印し、公証人が認証して完成です。当日は1時間もかからないことがほとんどです。
費用の目安は、公証人手数料が1万1,000円程度(証書の枚数などにより若干変動します)。行政書士に文案作成やご同行をご依頼いただく場合は、別途専門家報酬がかかります。
こんな方によくご相談いただきます
尊厳死宣言は、特別な方だけが作るものではありません。ご家族と延命治療について話したことがある方、老後の在り方を真剣に考え始めた方なら、どなたでも検討していただけるものです。
実際によくいただくご相談のパターンをご紹介します。
- 「家族には『延命はしないでほしい』と伝えたいけど、きっかけがなくて…」という方
- 「親が高齢で、本人の意向を確認しておきたい」とお子さんが親御さんと一緒に来られるケース
- 任意後見・遺言の準備を進めていて、「医療の場面もあわせて整えておきたい」という方
「まだ元気なうちから準備するのは早すぎるかな」と感じる方もいらっしゃいます。でも、尊厳死宣言は、判断能力がしっかりある元気なうちにしか作れません。「作りたいと思ったときに作れる状態であること」が、唯一の条件といっても過言ではありません。
自分の最期をどう迎えたいか——その思いを、きちんと形にしておくこと。それが尊厳死宣言の本質だと思います。
「どんな内容を盛り込めばいいかわからない」「任意後見と一緒に準備したい」「まず話だけ聞いてみたい」、どんなことでもお気軽にご連絡ください。
明日香司法書士・行政書士事務所では、尊厳死宣言公正証書の文案作成から公証役場へのご同行まで、おひとりおひとりのご状況にあわせてご一緒に進めております。
宜しくお願いいたします。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的アドバイスではありません。延命治療の中止に関する判断は、担当の医療機関・医師との十分な対話のうえで行ってください。法律や医療ガイドラインは改正・改定されることがあります。最新情報については専門家にご確認ください。


